◎ がん患者の漢方治療に頻用される白花蛇舌草と半枝蓮
がんの薬草治療(中国や台湾の中医学や韓国の韓方医学や日本の漢方医学)で最も多く使用される抗がん生薬は白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう)と半枝蓮(はんしれん)です。台湾医療ビッグデータの解析で、乳がんの漢方治療に関して以下のような論文があります
Hedyotis diffusa Combined with Scutellaria barbata Are the Core Treatment of Chinese Herbal Medicine Used for Breast Cancer Patients: A Population-Based Study(白花蛇舌草と半枝蓮との組み合わせは乳がん患者に用いられる漢方薬の中核治療法である:人口集団に基づく研究)Evid Based Complement Alternat Med. 2014; 2014: 202378.
この研究は、台湾の全民健康保険研究データベース(Taiwan National Health Insurance Research Database)に記録された乳がんに使用される漢方薬処方の中核的治療法を明らかにすることを目的に行なわれています。
乳がんの外来患者4,436人に対して発行された合計37,176件の処方箋が解析されました。
単一の生薬として最も使用されているのが白花蛇舌草(41.9%)でした。
最も多い組合せは、白花蛇舌草(Hedyotis diffusa)と半枝蓮(Scutellaria barbata)でした(10.9%)。この報告では、乳がん患者に使用する頻度が高い生薬として以下の順番になっています。
表:台湾医療ビッグデータの解析による乳がん患者に使用される単一生薬のトップ10。2008年の全処方箋37,176の内訳
複数の生薬を使う時に、がん治療で最も頻度が多いのが白花蛇舌草と半枝蓮の組合せです。
この傾向は中国も韓国も日本も同じです。
◎ 白花蛇舌草の抗がん成分としてトリテルペノイドが研究されている
白花蛇舌草(学名はOldenlandia diffusaあるいはHedyotis diffusa)は本州から沖縄、朝鮮半島、中国、熱帯アジアに分布するアカネ科の1年草のフタバムグラの根を含む全草を乾燥したものです。フタバムグラは田畑のあぜなどに生える雑草で、二枚の葉が対になっています。高さ10~30cmで茎は細く円柱形で、下部から分岐し、直立または横に這います。(下図)
抗菌・抗炎症作用があり、漢方では清熱解毒薬として肺炎や虫垂炎や尿路感染症など炎症性疾患に使用されます。さらに最近では、多くのがんに対する抗腫瘍効果が注目され、多くの研究が報告されています。
白花蛇舌草の煎じ薬は、肝臓の解毒作用を高めて血液循環を促進し、白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高め、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高めます。
脂肪肝やウイルス性肝炎やアルコール性肝炎などの各種肝障害で傷ついた肝細胞を修復する効果もあります。
消化管の悪性腫瘍(胃がんや大腸がんなど)や、肺がん、肝臓がん、乳がん、卵巣がん、白血病など各種の腫瘍に広く使用され、良い治療効果が報告されています。
飲み易く刺激性が少ないので、中国では白花蛇舌草の含まれたお茶や煎じ薬はがんの予防薬や治療薬として多く使われています。
成分としてヘントリアコンタン(Hentriacontane)、ウルソール酸(Ursolic acid)、オレアノール酸(Oleanolic acid)、stmigastrol、β-シトステロール、クマリンなどが分離されています。
白花蛇舌草の抗腫瘍効果に関する研究は、中国、シンガポール、台湾、英国、米国、日本などの異なる多くの研究グループが報告していますので、白花蛇舌草の抗腫瘍作用は世界的に注目されているようです。
抗腫瘍効果の作用機序は使用したがん細胞の種類の違いなどによって結果が異なりますが、様々な機序でがん細胞にアポトーシスを誘導する効果が認められています。
白花蛇舌草の抗がん作用の活性成分として、ウルソール酸やオレアノール酸などの五環系トリテルメノイドの関与が多く報告されています。
トリテルペノイドとは、5個の炭素からなるイソプレン単位が6個結合して30個の炭素原子からなる脂質性の化合物群を指しています。多くは4環あるいは5環の環状構造をつくっており、ステロイドやサポニンなど植物成分として存在しています。
五環系トリテルペンは、抗エイズウイルス作用や抗腫瘍効果があることで注目されています。
五環系トリペルペノイドの中で、特に抗腫瘍効果が注目されているのが、ウルソール酸(Ursolic acid)、オレアノール酸(Oleanolic acid)、マスリン酸(maslinic acid)、ベツリン酸(betulinic acid)などです。これらは、様々ながん細胞を使った実験で、がん細胞のアポトーシス誘導、血管新生阻害作用、毒物による障害から肝細胞を保護する作用などが報告されています。
ウルソール酸とオレアノール酸は白花蛇舌草に多く含まれています。マスリン酸はオリーブの果肉や葉に含まれます。
ベツリン酸は、白樺(シラカバ)の木の皮(樹皮)に多く含まれていて、betulic acidの名前は白樺の学名のBetula platyphyllaに由来します。白樺に寄生するチャーガ(カバノアナタケ)にも多く含まれています。
これらの五環系トリテルペノイドの抗腫瘍作用のメカニズムとして、上皮成長因子受容体(EGFR)やマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)などの増殖関連蛋白のリン酸化を阻害して、増殖シグナル伝達を抑制する作用などが報告されています。
白花蛇舌草の五環系トリテルペノイド以外の成分にも、様々なメカニズムによる抗がん作用が報告されています。解毒力や免疫力を高める成分も含まれています。白花蛇舌草の抗がん作用はこれらの複数の総合作用とかんがえるのが妥当です。
図:がん細胞では様々な増殖因子の受容体やマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)が活性化して増殖シグナル伝達系が亢進している。白花蛇舌草に多く含まれる五環系トリテルペノイドのウルソール酸とオレアノール酸は、がん細胞の増殖シグナル伝達系を阻害して、がん細胞の増殖、転移や浸潤、抗がん剤耐性、血管新生を阻害する。
【半枝蓮はがん細胞の酸化ストレスを高めてがん細胞を死滅する】
半枝蓮 (はんしれん)は学名をScutellaria barbataと言う中国各地や台湾、韓国などに分布するシソ科の植物です(下写真)。
アルカロイドやフラボノイドなどを含み、抗炎症・抗菌・止血・解熱などの効果があり、中国の民間療法として外傷・化膿性疾患・各種感染症やがんなどの治療に使用されています。
黄色ブドウ球菌・緑膿菌・赤痢菌・チフス菌など様々な細菌に対して抗菌作用を示し、さらに肺がんや胃がんなど種々のがんに対してある程度の抗腫瘍効果があることが報告されています。
漢方治療では、清熱解毒・駆瘀血・利尿・抗菌・抗がん作用などの効能で利用されています。
半枝蓮の抗がん作用に関しては、民間療法における臨床経験から得られたものが主体ですが、近年、半枝蓮の抗がん作用に関する基礎研究や臨床研究が多数発表されています。
米国のベンチャー企業が半枝蓮の抽出エキスを使って乳がんなどに対する効果を検討しており、有効性が報告されています。
中国医学で使用されている薬草の抗がん作用を検討する臨床試験としては、FDA(米国食品医薬品局)が承認した最初のものです。乳がんや膵臓がんなどで臨床試験が行われており有効性が報告されています。
基礎研究では、半枝蓮には、がん細胞の増殖抑制作用、アポトーシス(プログラム細胞死)誘導作用、抗変異原性作用、抗炎症作用、発がん過程を抑制する抗プロモーター作用などが報告されています。
さらに、がん細胞の解糖系と酸化的リン酸化を阻害してエネルギー産生を低下させ、がん細胞を死滅させる作用が報告されています。すなわち、半枝蓮はミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やし、DNAの酸化障害からポリADPリボース合成酵素(PARP)が活性化され、NADを枯渇して解糖系を阻害してATPの産生を低下させ、酸化傷害によってミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるATP産生も阻害するという機序です(下図)。
図:半枝蓮の成分はがん細胞のミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やし、酸化的リン酸化を阻害してATP産生を減らす。さらに、DNAにダメージを与えてポリADPリボース合成酵素(PARP)を活性化し、NADを枯渇して解糖系を阻害する。これらの作用によってがん細胞のATPが枯渇して死滅する。
白花蛇舌草と半枝連は併用されることが多く、進行がんの治療では、白花蛇舌草は20~60g、半枝蓮は10~30g程度を1日量の目安として煎じ薬として使用されます。
例えば、ある民間療法の処方では白花蛇舌草と半枝蓮は2:1で使用されていて、白花蛇舌草65gと半枝蓮32.5gを1日量としてお湯で煎じて飲用するという方法があります。
白花蛇舌草と半枝蓮は中国の民間薬であり、がんに対する有効性は経験的なものですが、この2つの生薬の抗がん活性に関する科学的な研究が、日本や欧米の医学雑誌などにも掲載されるようになりました。
◎ 白花蛇舌草と半枝蓮の抗がん作用の相乗効果
抗がん剤の有効性の判断は、何よりも腫瘍サイズの縮小(奏功率)であり、それも50%以下にならないと有効と判定されません。
QOL(生活の質)がいかに改善され、何か月にもわたって腫瘍サイズが不変のような薬剤があったとしても、現行の基準では無効と評価され、治療薬になる可能性はゼロです。
抗がん剤開発の過程では、生薬を始め多くの薬草の抗がん活性がスクリーニングされてきました。しかし生薬の抗がん作用のスクリーニングの過程ではがん縮小効果の強いことが選択の基準とされてきたため、がん縮小率は低くても延命効果という面から有用な生薬の多くが見逃されてきました。
抗がん生薬の多くは、腫瘍縮小率から評価すると、化学薬品の抗がん剤の効果に及ばないのですが、副作用が少なくしかも腫瘍の増殖を有意に抑制できるようなものは腫瘍の退縮につながります。腫瘍縮小率が0であっても、がん細胞を休眠状態にもっていけるものであれば延命効果は期待できます。このような薬剤は、従来の抗がん剤の評価法では無効と分類されるものですが、がんとの共存を目指す治療においては極めて有用と考えられます。
生薬には、毒性を示すアルカロイドだけでなく、抗がん作用や免疫増強作用を有するフラボノイドやサポニンや多糖類など抗腫瘍効果を有する成分が多く含まれています。
このような生薬を複数組み合せることによって、がん細胞の増殖を抑制し休眠状態に誘導することも、縮小させることも不可能ではありません。
がん細胞を死滅させる作用のある「抗がん生薬」の多くは感染症や炎症の治療にも用いられており、「清熱解毒薬」と言われることもあります。
「清熱解毒(せいねつげどく)」という薬効を西洋医学的に解釈すると、抗炎症作用(清熱作用)と体に害になるものを除去する作用(解毒作用)に相当します。
体に害になるものとして、活性酸素やフリーラジカル、細菌やウイルスなどの病原体、環境中の発がん物質などが考えられますが、「清熱解毒薬」には、抗炎症作用、抗酸化作用、フリーラジカル消去作用、抗菌・抗ウイルス作用、解毒酵素活性化作用、抗がん作用などがあり、がんの予防や治療に有用であることが理解できます。
白花蛇舌草の抗がん成分としてトリテルペノイドのウルソール酸(Ursolic acid)とオレアノール酸(Oleanolic acid)などが指摘されています。
白花蛇舌草の煎じ薬は、肝臓の解毒作用を高めて血液循環を促進し、白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高め、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高めます。ウルソール酸やオレアノール酸などの五環系トリテルペノイドは細胞の増殖シグナル伝達系を阻害する作用が報告されています。多くのがんに広く使用され、良い治療効果が報告されています。
さらに半枝蓮はフラボノイドやアルカロイドなど多くの抗がん成分が含まれており、がん細胞の増殖抑制作用、アポトーシス(プログラム細胞死)誘導作用、抗炎症作用などが報告されています。 最近は、人間での臨床試験も実施されるようになり、臨床での有効性が報告されています。
つまり、これら2種類の組合せは、異なる成分と多様な作用メカニズムの相乗効果で、抗がん作用を高めることができます。しかも、副作用は極めて低いのが特徴です。
がんの漢方治療において、白花蛇舌草と半枝蓮の組合せは試してみる価値はあると思います。
● 白花蛇舌草の煎じ薬についてはこちらへ:
● 半枝蓮の煎じ薬についてはこちらへ: